COLUMN

コラム

おすすめの本: ドラゴンクエストへの道

第3回目のおすすめ本を紹介していただくのは札幌事務所エンジニアのKTさんです。(入社2年目)

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前回の方とジャンル繋がりとなりますが、私は「ドラゴンクエストへの道」という本をご紹介します。

みなさんはドラゴンクエストというゲームをご存知でしょうか?
中世ヨーロッパをイメージした剣と魔法の世界で、世界に平和をもたらすために強大なモンスター(竜王)を倒すというロールプレイングゲームです。
日本ではそれなりに有名な作品ですので、ゲームをしたことがない方でも知っているという方はいるかと思います。

この本はそのドラゴンクエストの誕生に心血を注いだクリエイター達の物語です。

本書は、エニックスという会社が主催したゲームコンテストにてエニックスの千田幸信氏(プロデューサー)、当時高校生の中村光一氏(プログラマー)、フリーライターの堀井雄二氏(シナリオ)らが出会うところから始まります。
まだゲームといえばPCで遊ぶものだった時代の頃、任天堂からファミコンが発売され一大ムーヴメントが起きます。

その波に乗る形でエニックスもファミコンソフトを開発し、その後企画されたのがドラゴンクエストでした。

当時のゲームソフトは64kBという限られた容量の中ですべてを表現する必要がありました。
(ドラゴンクエスト1ではカタカナも一部のみ、主人公のグラフィックスは正面向きのみで、会話する時は方角を指定します。)
さらに、ロールプレイング自体が浸透していなかった時代のため、いかに取捨選択をし、分かりやすい画面表示をするかなど多くの試行錯誤がありました。

そうした多くの困難を乗り越えドラゴンクエストは発売、140万本の大ヒットとなりました。

言ってしまえばよくあるサクセスストーリーなのですが、小学生の頃に読んだ私は非常に感銘を受けました。
そして、この作品を読んだことで今でもなお2つのことを強く考えさせられます。

1つは、物作りの姿勢についてです。
作品内では発売直前まで(正確には発売延期してまで)作品の完成度を上げるための改善がなされています。
「売る側の都合で遊んでくれる子ども達の期待を裏切ることはしたくない」という強い思いがありました。
(その後、毎度のように発売延期しているのはどうなのか?という意見は置いておくとします。)

また、堀井氏はドラゴンクエスト10のディレクターとの会話において、以下のようなことを語ったそうです。
「決められた仕様のとおりの100点を目指してものを作るのではなく、限られた予算と期間の中で何百点の面白さにまでもっていけるか?」
ゲーム作りには満点というものはなく、どこまででも点数を上げることが出来るのです。

私も常に後者の働き方をしたいという思いはありつつも、前者の動き方を選択せざるを得ないという時はあります。
今の状況を考慮しながら、それでも100点以上を採ることは出来ないかと考え続けるようにしています。

もう1つは、偏見による攻撃の危うさについてです。

プロデューサーの千田氏は「世界一のゲームソフトを作り、子供達に夢と感動を与えたい」という信念のもと、想像力を刺激するゲームにはプロの作った音楽が必要だとすぎやまこういち氏を口説き、キャラクターデザインには当時ドラゴンボール執筆中であった鳥山明氏を起用、「真のプロフェッショナルによるゲーム作り」を目指しました。

また、ファミコンは一人で遊ぶゲームではなくみんなでワイワイやりながら遊ぶようなコミュニケーションメディアであるとし、まわりで見る人を意識した情報表示を徹底したそうです。

ゲームを通じて真剣に子ども達と向き合い、その未来のために尽力をしたのだと感じます。
しかし、そうした中で周囲からの反発は相当なものであったと思われます。
ゲームは事あるごとに世間から悪者として扱われ、それは今なお続いています。

すべてのゲームが素晴らしい信念のもと作成されている、とは言いませんが、偏った意見のみを盲信し、特定の表現方法を攻撃するというのはとても残念なことです。

映画ドラゴンクエストではそうしたクリエイターの苦悩とも言えるものが表現されており、監修した堀井氏が涙した、というのも納得できるものがあります。(映画自体は二度と観たくないですが)

ドラゴンクエストは黎明期にあったゲーム文化が大きく発展するひとつのキッカケを作ったことは間違いありません。
本書ではその中でどのような信念や紆余曲折を経て誕生するに至ったか、その「道」を垣間見ることが出来ます。

私にとってはゲームだけでなく本書自体も夢と感動を与えてくれる作品でした。
残念ながら絶版となって久しく、入手は難しいかもしれませんが、漫画形式で読みやすくまとまっているので機会があれば是非一読いただきたいです。